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東京高等裁判所 昭和24年(新を)1160号 判決

被告人

藤井春海

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人佐藤清吉の控訴趣意について

賍物罪は不法に領得せられた物件に対する被害者の返還請求権を侵害することによつて成立するものであるから同罪の成立する為にはその行為の時においてかかる返還請求権を侵害することを要し又これを以て足るものと解しなければならない。従つて被害法益である返還請求権の有無は専らその行為の時により之を決められるべきであつて、たとい後に之が失われるようなことがあつたとしても既に成立した犯罪は何等の消長を及ぼすものでないことは勿論である。所論が賍物性の有無を判決の時によつて決めようと主張するのは恰かも犯罪の成立を解除条件にかからせるようなものであつて刑罰法の本質に副わない独自の見解を言う外はなく、又その援用する判例学説等も亦すべて前段の説明と同一の立場においてただ賍物性は行為の時によつて決められるべきものであるからたとい不法に領得せられた物件であつてもその後賍物犯となる行為までの間にその賍物性を失うことがあることを説いておるものであつて何等所論を理由ずけるわけのものではない。原判決が被告人の牙保行為の時によつて本件の賍物性を決めその後の返還請求権の消長を検討しなかつたことは正当であつて、何等所論のような事実の誤認や審理の不尽はなく論旨は理由がない。

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